こんにちは、代表の西尾です。
Buttersでは、2021年3月1日より北海道・別海町の指定酪農家の生乳から作るシングルオリジンバターを使用した『Craft Butter Sable(クラフトバターサブレ)』の販売を開始いたしました。
このシングルオリジンバターは、ベルギーの乳製品メーカーPur Natur社と技術提携して作られています。北海道・別海町のシングルオリジンの生乳を使い、ヨーロッパの伝統的な製法「チャーン製法」でじっくりと時間をかけて作られた発酵バターです。手間も時間もかかる製法のため、国内ではあまり採用されていない製法ですが、フレッシュなミルク感を感じながら、コクも深みも味わえるバターが出来上がります。
今回は、この『Craft Butter Sable』の味わいを作る発酵バターを作られている株式会社カネカで乳製品事業開発を行っていらっしゃる天川 隼人さんにビデオ通話でお話を伺いました。
創業70年の化学メーカーが新しく取り組む、乳製品事業
ー カネカさんと言えば、プラスチックなど化学製品などを作られている「化学メーカー」だと思っていました。バター作りに取り組まれたきっかけは?
天川さん「はい、私たちは化学メーカーですが、2018年4月からバター製造などを行う乳製品事業に参入しました。
私たちは『社会が抱える課題解決に挑戦』することをミッションとしており、例えばマイクロプラスチック問題にも挑んでいます。以前、海カメにプラスチックストロ―が刺さってしまった写真が大きく報道され社会問題になりました。私たちは、この問題の解決策として海で溶けるプラスチック『生分解性プラスチック』の製造にも力を入れています。このように、世の中で困っている問題を解決することで、私たちも成長していきたいと考えています。
乳製品事業に参入したきっかけは、日本の酪農家が大きく減少していることを、社会的な課題であると捉えたことにあります。酪農家は後継者不足や労働力不足から、厳しい環境にさらされており、酪農家の戸数が大きく減っています。もちろん、私たちだけで解決できる問題ではありませんが、直接酪農家と契約し、少しでも魅力ある酪農業に貢献出来ないかと考え、酪農家を支援することを事業の理念として乳製品事業を立ち上げました。」
ー 担い手がどんどんと減ってしまっているのが問題ですね。どのように酪農家を支援していくのでしょうか?
天川さん「まず1つ目は、酪農家さんの想いを実現したいと考えています。
現在取引している別海町の酪農家さんは、自らが生産するこだわりの生乳を、もっと目に見える形で世の中に商品として販売したいという想いをお持ちでしたので、今回のバターは、想いを実現した一つの形です。
この酪農家さんは生乳作りに熱意をもって取り組んでいらっしゃるので、こだわった生乳の味がバターとなって消費者にそのまま届くことが嬉しいとお話いただいています。
そして2つ目は乳質へのこだわりです。酪農家さんと一緒により良い乳を目指して取り組んでおり、分析機器を導入したり、働きやすい環境づくりをしたり、酪農家さんと一緒になって、より良いモノづくりを目指して取り組んでいます。」
別海町の情熱的な酪農家が作る後味がすっきりした生乳
ー 酪農家さんが減っている中、生乳作りにこだわっている方と出会い、取り組むことができたのはとても素敵ですね。
天川さん「はい、この酪農家さんは本当に情熱的で、初めてお会いした際は、酪農に対する熱意にあてられて、私も夜眠れなくなるほど熱い気持ちになりました。
私たちは乳製品事業を始めるときに、私たちの想い『魅力ある酪農業を作ること』に共感してくださる酪農家さんを探しました。そんな中、出会った別海町の酪農家さんは、良い生乳作りに情熱的で探求心が高かったです。品質が良いことももちろん、私たちの想いに共感いただいたことでスムーズに取り組みが始まりました。」
ー とても生乳作りに熱い方が作られていることが伝わってきました。ミルクはどのような特徴がありますか?
天川さん「出来上がった生乳は乳の味わいがある新鮮な風味が特徴です。この別海町の酪農家さんは、牛に良い環境作りにポリシーを持って取り組んでおられます。牛はデリケートな生き物なので、過ごしやすい環境を作り、その環境下で牛たちが生活することが大切だと考えて育てていらっしゃいます。また牛が食べる水や飼料など牛の身体を作るものがそのまま生乳の味わいとなります。おいしい飼料を与えるため、種まきから収穫までの自家栽培を行うだけでなく、海外に渡り最新の飼料作りを学ばれたり、独自方法で飼料を熟成させるなど、こだわりをもった飼料を与えていらっしゃいます。」
ー 今回のバターは、発酵バター *1 なのに重くなく、すっきり軽いので僕たちが作りたかったサブレにあうと思い使わせていただきました。酪農家さんの良い環境づくり、飼料作りがバターに生きてきているのですね。
*1 発酵バター:生乳から分離したクリームに乳酸菌を加え発酵させたバター。元々ヨーロッパではバター技術が未熟であるゆえ自然に発酵バターが作られていたそうです。日本ではバターの歴史が浅いため、発酵せずに作る無発酵バターが主流です。
伝統的な製法で作るPur Natur社の発酵バターの技術
ー バターのおいしさの秘密の1つは別海町で情熱を持って作られた生乳であることが分かりました。また、バター好きの方にも有名なベルギーのPur Natur社と技術提携されているということにも驚きました。
天川さん「Pur Natur社は、伝統的な製法でおいしい乳製品を作られていることはもちろんなのですが、ベルギーの酪農家と直接契約をしており、酪農家さんのことをパートナーと呼び長くお付き合いされています。こだわった乳を使っておいしいものを作りたいという私たちが目指していた乳製品事業をすでにベルギーでやっていたのです。循環型の酪農業を作りたいという想いが一致し、Pur Natur社と技術提携してもらうことになりました。」
ー 酪農家さんと同じように、想いに共感されたんですね!ベルギーと北海道だと距離もありますし、乳の味も異なるかと思います。バター作りはどのように行ったのですか?
天川さん「Pur Natur社のバターの特徴は『さわやかなアロマ』。技術提携をするならば、この特徴を受け継ぎたいと考えました。
技術提携にあたり、私たちの研究員がベルギーの工場に伺い、製法や工夫を教えてもらう形でバター作りを学んでいきました。
Pur Natur社は、発酵バター作りに昔ながらの『チャーン製法 *2』で少量ずつ製造しています。これが独特な製法で、職人の肌感やその日の温度で細かい調整が必要で、実はベルギーの工場でも2名しかチャーン製法でバターを作ることができません。」
天川さん「私たちはこの技術を学びましたが、職人の肌感や経験値は言語化しにくく、北海道で作るときもなかなかおいしいものが作れず正直苦労しました。職人が言っていることは、どのポイントを守ればできるのかを細かく調整、数値化していきます。1つクリアすると次の壁にぶつかって、またクリアしてと1歩ずつ前に進み、やっと安定した品質のバターを作れるまでになりました。」
*2 チャーン製法:古くからヨーロッパで行われているバター作りの製法。木製の機械に生乳から分離したクリームを入れ攪拌し練り上げるため、滑らかな口当たりのバターを作ることができます。
ー 数値化していくのは化学メーカーであるカネカさんらしい取り組み方ですね。出来上がったバターはどんなお味になったのでしょうか?
天川さん「Pur Natur社の特徴であるさわやかなアロマに加えて、別海町の生乳の特徴であるすっきりとした新鮮な味わいを残すことができました。
特に乳酸発酵を長時間かけてゆっくり行い、温度帯も1次発酵・2次発酵と変え、熟成していくようなしっかりと味がでる作り方をしています。あまり量が作れない分、おいしいバターを作れるよう手間をかけて作りました。」
『Craft Butter Sable』では、この北海道・別海町の生乳から作られたシングルオリジンバターを、風味とコクをより強く感じられるよう、ヘーゼルナッツのような色になるまでバターを熱した「ブール・ノワゼット(焦がしバター)」をたっぷり入れました。サブレに見られるブール・ノワゼットの黒い粒から濃厚な旨みを感じられます。
また、このシングルオリジンバターは、Butters Onlineや一部店舗でご購入いただけるよう準備をしております。
別海町の酪農家さんと、株式会社カネカさんがこだわりをもって作る発酵バターの味をButtersの『Craft Butter Sable』でお楽しみください。